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キャラクター論

まず、まじめな男が居たとする。
そしてその男がまじめであるなら、その男がまじめであるエピソードを描く必要がある。
その男が顔に似合わずアイスクリームが好きであるなら、有名なアイスクリームショップ
か何かで、いかつい顔でそれを食す・・とかいったエピソードを作らねばならない。

物語のキャラクターを作るのであるから、その人の性格や趣味などを設定することは
もちろんであるが、気を付けるべきは「それを理解してるのは作家ばかり」であって、
読む側は初めて出会う人間であるということだ。

つまりは、その人の性格や好み等が理解できるエピソードを描かねばならないということ
であり、またそれを描くからこそ物語が進行可能となるのである。
「キャラが出来たけれど、ストーリーが思い浮かばない」という人が陥っているのは、
キャラのバックグラウンドは既に伝わっている、という前提・思い込みがあるからである。

「寅さん」を例に挙げると、主役の寅次郎は
①お調子者で②喧嘩っ早く③世話好きで、④美女に弱いがそれでも⑤自分の幸福より
相手の幸福を最優先してしまう⑥本当は繊細で涙もろい男、である
主役の特性①~⑥に準拠したエピソードを入れ込めば、自然と寅さんの物語が完結する。
そして驚くべきことに、観る側はオチも性格も分かっているのに、何度でも楽しめてしまう。

そして寅次郎の周囲にいる脇役・・タコ社長・がじろうは②、タコ社長の娘や光男は③、
毎回出てくる美女は①④⑤、妹の桜は⑥を演出するために必要だから存在しており、
その絡みが彼ら自身の性格説明のためのエピソードともなる。

また、物語で起きる主要な事件・出来事は、主人公の人格の秘められた部分を暴く。
それは、往々にして主人公にとって普段は見せない側面(強かったり弱かったり、下品
だったり気高かったり、自己中だったり犠牲的だったり・・)や、胸に秘めていてもあらわに
できない思いだったりする。
たとえば「本当は○○を愛している!」「俺だけ助かりゃいいんだよ!」「俺ごと貫け!」
なんて言葉は、普段は起こりえない余ほどの危機的・緊迫した状況でないと吐けない。

このように鑑みて、物語とは主人公のパーソナリティを衣服の様に剥いでいって、恥ずかしい
「生身」を赤裸々に・剥き出しにする「心のストリップ」と言えなくもない。


予備知識
これは多分明確に定義されていることだが、「主人公」とは物語内で目的を定めて行動し、
それにピリオドを打つ者、である。よく「ラスボスを倒すのが主役」と説明されるが、寅さん
では「ヒロインに恋をして、最後は恋敵に譲る」までがメインストーリーであるから、寅さんが
ラスボスに「恋をあきらめる」という形でとどめを刺しているのが分かり易い。
簡単なことに思えるが、「ごんぎつね」「蜘蛛の糸」など誰か主役か分かりにくい物語では、
知っていると分析しやすい。

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